三島由紀夫の異色のSF小説「美しい星」の映像化!
映画になった「美しい星」をやっと観てみました。
ある日、大杉一家がそれぞれ、火星人、水星人、金星人、地球人として覚醒。
それぞれ宇宙人として美しい星、地球を救うために奮闘する。
というストーリー。
映画「美しい星」とは
あらすじだけ見るとギャグみたいなストーリーだよ。
最初、この映画を映画館の特報で知ったんだけど、それを見た時の感想は、
「何、この映画はSFなの? それともコメディーなの? なんなの?」
だった覚えがある。
あまりにもぶっ飛んでいて冗談としか思えない設定の割に、特報の雰囲気は笑いの要素が一切ないという異次元の雰囲気を放っていて、それ以来すごく気になっていた映画だ。
実はこの映画を上映している時に、妻と一緒に見に行けるかもしれないタイミングがあったのだ。
その時上映していた映画は特に目を惹くものがなく、「メッセージ」か「美しい星」くらいだったのだけど、妻の、
「小難しいのや、訳分からないのは嫌」
のひと言で映画に行く計画自体が流れてしまったと言う・・・。
それで、また上映から1年くらい経ってからレンタルして見ましたよ、というので感想書いてみたいと思う。
映画「美しい星」、若干ネタバレ感想
先ほど書いた通り、原作は三島由紀夫が1962年に発表した小説『美しい星』。
監督は、『桐島、部活やめるってよ』や『紙の月』などを手がけた吉田大八監督。
『桐島、部活やめるってよ』は凄く評判が良いみたいですね。
吉田大八監督の映画は今回、初めて観ましたが、「演出が上手だな」と感心してしまいました。
これを機に、吉田監督の作品をしばらく追いかけて観るのもいいかも知れないなぁ。
作品全体としてはかなりシュールで、無茶苦茶な内容なんだけど、最後までしっかり観る事が出来た。
それは一重に、出演している役者の方々の演技が良かったからだと思う。
映画の主役は大杉一家の4人 + 謎多き政治家秘書、黒木だ。
登場人物を紹介しながら映画の感想を書いていこうと思う。
大杉家の人々
当たらないお天気キャスターの父、重一郎役はリリー・フランキーさんが演じている。
なんというか、怪演とも言える演技でしたね。
どこかの映画感想ブログで、リリー・フランキーさんの事を
「狂ったおっさんと愛情深い父親を演じさせたら右に出るものはいない」
とか書いてあったのを以前見た気がするけど、何となくその感想も分る気がするよ。
当たらない天気予報士としてヘラヘラしながら毎日を過ごしている時の重一郎役と、火星人として目覚めてから猛烈に地球温暖化の危機を訴える重一郎役の変貌ぶりは凄いのひと言。
カメラの前で大真面目にポーズを決めるシーンも笑いどころではあるんだけど、重一郎から出ている緊迫した雰囲気が笑うのをためらわせる。
また、クライマックスシーンの一雄、黒木との討論のシーンでも、太陽系連合の代表として家庭の父親として揺れている演技が良かった。
野心が祟ってフリーターをしている長男、一雄役を演じているのは亀梨和也さん。
亀梨和也さんに関しては、演技が良かったというよりも役がハマり役だったという感じがしたかな。
ただ、映画の最後、クライマックスシーンで重一郎、一雄、黒木が地球は救うに足るのかを議論するシーンは、メチャクチャ良かった。
美人すぎて周囲から浮いてしまっている長女、暁子役を演じたのは橋本愛さん。
いやー、橋本愛さんすっごい美人ですよね。
他のブログとかでは、美人すぎて演技がどうこうというのが分からなかった、とか書かれているんだけど、何となく分る。
画面に映っているだけで強烈な存在感を放っていた、というのが橋本愛さんに対する今回のイメージかな。
暁子が金星人としての自覚を持ってからは、更に綺麗さがアップしてるのが凄いなと思いました。
そんな家族に振り回されながらも何とか家族を1つにしたいと願っている母、大杉家で唯一の地球人である伊世子役を演じているのは中嶋朋子さんです。
原作では伊世子は木星人として目覚めるらしいです。
映画ではその部分が修正され、彼女だけ地球人として行動しています。
原作の小説の方は読んだ事ないけれど、この変更点は映画全体にとって良かったんじゃないかと思います。
母が最後まで地球人であったので、この映画のテーマの1つである「家族」の部分が強烈に補完されていると思うからです。
家族それぞれが宇宙人として覚醒して奇行に走る中、母、伊世子も地球人としてマルチ商法にハマって行きます。
ただ映画の最後で、マルチ商法に手を出したのは「また家族で海外旅行にでも行きたかったから」と病院のベッドで横になっている重一郎に語るシーンがあります。
家族全員が、宇宙人として自分たちの使命に燃えてバラバラに走り出している中、伊世子はそれでも家族としての関係を何とか回復したいと願っているという部分にちょっと感動してしまいました。
家族それぞれが社会で世間とのズレを感じ、生きづらさを背負っている、その葛藤のしわ寄せが家族関係に現れている。
その家族をとりなしながら奮闘している母親の姿、良かったです。
政治家秘書、黒木
そしてこの映画最大の謎キャラである政治家秘書の黒木役を演じたのが佐々木蔵之介さん。
この黒木という人物がいるのがこの映画最大のポイント。
黒木は自らを水星人と名乗っており、作中で「宇宙人」という存在は大杉家の妄想ではない事を強烈に印象づけるキャラクターとなっている。
この黒木役を演じた佐々木蔵之介さんの演技は本当に凄い。
作中で底知れない不気味さを醸し出し、圧倒的上から目線で地球人を見下している演技は圧巻のひと言。
もしこの黒木という人物が居なければ、大杉一家の主張と行動は単なる妄想に基づいた奇行であったという事になってしまう。
でも、黒木の存在は宇宙人の実在を証明しているようにも見えるのです。
「大杉一家は本当に宇宙人として目覚めたのか」というのはこの映画全体における大切なポイントで、もしそれが彼らの現実逃避のための願望や妄想であったのなら、この映画はそもそもSFとは言えない訳で。
しかし、水星人を名乗る黒木という人物がいる事によって、大杉家の人たちの主張は一概に妄想だとも言えないようになっているのだ。
この辺が、この映画のキモだなぁと思います。
しかし、佐々木蔵之介さんの演技、ヤバイわ。
全体を通しての感想
映画全体としての感想をひと言で言うなら「意味不明」です。
場面、場面だけ切り取って見ると分るんだけど、作品全体として何を主張しているのかという事は、あえて分からないようにされている感じなんだよね。
強いてこの映画のテーマを言うなら、「地球環境問題」と「家族」でしょうか。
この食い合わせの悪そうな2つのテーマが組み合わされていると言うだけでも正気の沙汰じゃないよ!
ただ、訳分からない内容だけど1つの作品として魅せる事には成功しているという感じなんですよね。
何言ってるか分かんないだろうけど。
内容は分からないけれど、不思議と気になって観てしまうみたいな感じ?
そういう意味では不思議な魅力に溢れた作品だと言える。
見る人を確実に選ぶタイプの映画なので要注意!
多くの人には訳分からないけど、好きな人はトコトン好きみたいな感じの映画ですな。
僕は超好きですね。
特報見た時から、「ああ、これは僕の好きなタイプの映画だな」という予感があったので。
ちなみに、妻にとっては嫌いなタイプの映画ですね。ハイ。
解釈は見ている側に委ねられている感じなので、人によって色んな感想があると思う。
人と一緒に見て、どう感じたかを話し合うのが楽しそうな映画なので、誰かと一緒に観るのがおススメ!
物好きな方は一見の価値あり!